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やれることは、何でもやる No.177

<やれることは、何でもやる>

 

1.「普通のこと」をしていては 

何気なく見ていたテレビ番組から、
 「成果を手にした経営者」と「そうでない経営者」が漏らす本音やそこ
 に至る歴史が俯瞰できて、自ずから「経営の核心」らしきものが窺われ
 興味深いものを感じられるのです。

 それを見たのは、二つの「酒蔵」の別番組のものだったのですが、
 一つは「所さんのそこんトコロSP開かずの金庫」に出演した茨城県取
 手市にある360年以上の歴史を誇る「田中酒造」と、もう一つはNHKの
 「逆転人生」で紹介されていた「大吟醸“獺祭”」で有名な山口県岩国
 市にある「旭酒造」で、この二つの「酒蔵」に対比の妙がありました。

 「獺祭の旭酒造」の経営者は、自身を『負け組』だと規定して、
 「何かを変えなければ」「何かをやらなければ」と考えて、「やれるこ
 となら何でもやって」その結果、売上153億円にまでなった企業です。

 <所さんのそこんトコロSP開かずの金庫>
 「田中酒造」が在所とする取手市は、江戸時代には水戸街道の宿場町と
 して栄え、利根川を利用した水運の要衝として大変賑わったそうです。
 その「田中酒造」は当地で、360年以上の歴史を誇るもっとも古い酒蔵で、
 明治時代には50人もの従業員をかかえ、酒造業のほかに廻船問屋なども
 経営して、莫大な財を築いたということでした。

 さて、テレビ番組に出演したのは15代目の経営者夫婦で、
 「開かずの金庫」を開けてほしいという依頼によるものでした。
 「田中酒造」は敷地は1100坪もあり、店や住居などは現在の価値なら
 9億円以上はあるだろうと言われるのですが、
 今は夫婦二人だけで酒造りを続けています。
 
 ご夫婦二人を見ていると仲睦ましそうで、伝統の家業を細々とではある
 が続けているといった趣です。
 そんな夫婦が「『開かずの金庫』の中に入ってほしいものは」と聞かれ、
 思わず言ったのが『キャッシュ』で、開錠の結果は旧札で3万数千円と
 小切手帳の片割れと手形帳と何個かの「入れ歯」が出たのでした。
 

 <NHKの「逆転人生」>
 この酒蔵は、知る人ぞ知る「大吟醸“獺祭”」で有名な山口県岩国市に
 ある「旭酒造」なのですが、番組で語られたことから驚異の急成長を果
 たせた、生な「手がかり」が伝わってきました。
 とは言え、それは必死の中で達成されたものであり、後追いで解釈でき
 るのですが、決して理路整然としたものでないことも分かります。

 この酒蔵も、歴史的には古く1,700年の創業だそうですが、ただ現在の経
 営者の祖父が買い取って始めた事業で、現経営者は3代目です。

 3代目経営者「桜井一宏氏」が亡き父親の後を継いだのは1984年34歳
 の時で、従業員は6名、その時の同社の年間生産量は1.8リットル入り
 一升瓶換算で7万本で、売上高は9,700万円という状況でした。

 少し詳しくそれを見ると、この売り上げは前年の85%の落ち込みでかつ
 10年間の生産量は最盛期の4分の1で、衰退産業の落ち込みと期を同
 じくするもので、事実上の倒産状態、廃業寸前だったそうです。
 テレビ番組のなかで、桜井氏は「あの時、閉めるのが普通の優秀な経営
 者の感覚だった」と、その時のことを述懐しているのです。

 少し余談を入れますが、よくある話とも言えるのですが。

 “どん底”を逆転させた成功者が、同じくして語る「苦悩話」があり、
 桜井さんもそうなのですが、それは「生命保険に加入しているので、俺
 が死んだら保険金で、全部うまく清算できる。」というものです。
 それを逆転されるのが「死ぬ覚悟を決めたら何でもできるはず」という
 「開き直り」で、ここから「諦観の意思の強さ」が生まれています。

 倒産の危機の中で、何から始めたのか。
 「何かを変えなければ」「何かをやらなければ」として行きついたのが、
 「酔うだけが目的のどこにでもある酒」ではない“酒造り”で、
 ホームページに「おいしい酒・楽しむ酒を目指してきました。何より、
 酒のある楽しい生活を提案する酒蔵であり続けたいと考えています。」
 ここから、おいしいお酒「純米大吟醸」づくりを始めたのです。

 6年の歳月を費やして、やっと納得できる風味の精米歩合50%の「大吟
 醸」が出来上がり、名前も「獺祭」に変えました。
 さっそく販路拡大をはかるべく、東京の百貨店に持ち込んだのです。
 「いい酒なので、ぜひ」と持ちかけると「ここにある酒はみんないい酒、
 何か特徴があるの。」と問われ、何も言えなかったのでした。

 その2年後、日本一にこだわった「精米歩合23%の大吟醸」をつくり始
 めるのですが、この“23%”に決めた経緯が洒脱で、
 「日本一」を目指して最初“25%”をと決めたのですが、なんと“24%”
 の大吟醸が既のあることを教えられ急遽“23%”としたのです。
 目ざしたのは「おいしい」と「新たなもの」と「日本一」でした。

 最初の「精米歩合23%の大吟醸」は、酸っぱい、香りがしないの代物で、
 ただ透明感は格別でここに可能性を見つけてつくり続けたのです。
 10年の歳月がかかったのですが『うまい』を言わしめる大吟醸をつく
 りあげることができました。
 時代が「うまい酒」を受け入れる環境となり、業績も少し上向きます。
 
 ここでドラッガーの言葉を挟みます。

 「成功したイノベーターには、リスク志向の人はいない。」「あらゆる
 活動にリスクが伴う。しかも昨日を守ること、すなわちイノベーション
 を行わないことのほうが、明日をつくることより大きなリスクが伴う。」
 『成功するものは保守的である。保守的たらざるを得ない。かれらはリ
 スク志向ではなく“機会”志向である。』

 桜井さんには、大手酒造メーカーで3年半営業マンとして活躍していた
 経歴があり、販路開拓を行い直に“市場の雰囲気”をつかんでいます。
 「おいしいお酒」をつくりあげても「酔う酒」ばかりを扱っている卸店
 でなかなか取り扱ってもらえず、そこで「こだわり酒」を取り扱ってく
 れる酒店に焦点を絞って売上を拡大して行きました。

 こんなことを言っています「やれることは何でもやった。そのほとんど
 は失敗で、けれどそのなかに“よいこと”があった。」
 大吟醸をつくった時も、二級酒しかつくったことのない「杜氏(酒蔵の
 最高製造責任者)」と文献、資料をかき集め研究して、何年も根気よく
 取り組んで「大吟醸“獺祭”」を誕生させたのです。

 すこし詳細な話になりますが、
 「旭酒造」の製造の特徴は、徹底した「空調管理」と「データ管理」で、
 1年を通して安定して「大吟醸」を供給できる強みをもっています。
 ところで、このような思い切った技術改革はをどのような経緯で行われ
 たのか、下地と経験はあったのでしょうが直接の起因は、杜氏が新規事
 業に失敗したの見て「もう来たくない」と言い出したことによります。

 これって「災い転じて、福となす。」そのもののようで、
 少しずれているかもしれませんが、別の慣用句「失敗は、成功のもと」
 ともとれます。
 成功する経営者のケースだけでなく、大きくはノーベル賞を獲得した学
 者にも意外とよくあることで、困難は“機会”へと転換するのです。


2.万事塞翁が馬

 「人間万事塞翁が馬」という中国の故事があります。
 「人生の禍福は転々として、予測できない。」ことの例えなのですが。

 少し長くなるのですが、こんなことです。
 「昔、中国の北辺の塞のそばに住んでいた老人の馬が胡の地に逃げた。
 その数か月後、逃げた馬が胡の駿馬を連れて帰ってきた。老人の子がそ
 の馬に乗り落馬して足を折った。翌年に胡人が大挙して国境を越えて侵
 入してきて頑健な男子はみな兵隊にとられた、足を悪くしていたがため
 に息子は徴兵を免れた。」と言うものです。

 “幸運”は、人をして惰眠に誘い、そして不幸の種をも蒔きます。
 “不運”は、思いを変えれば決意すれば普遍の財産と幸運を与えます。
 積極的に「この苦境を打開しよう」と『やれることは何でもやった。』
 そのほとんどは失敗で、けれどそのなかに「“よいこと”があった。」
 が、やがて「153億円の売上」につながったと言えます。

 ※「普遍の財産」について
 普遍の財産とは、それはその人やその組織の属性となったもので、ドラ
 ッガーはそれを「知識(技術、ノウハウ、コツ)」であるとも言います。
 トヨタでは「絶えることなく“知恵”を絞り出すための知識」があり、
 旭酒造においては「大吟醸をつくりあげた知識」であり「新市場を開拓
 して行くための知識」で、さらに「有能な人材を育てその貢献を引き出
 す知識」これらが、優位を保証する「普遍の財産」です。

 「お金」で、普遍の財産や人材の貢献を買うことが難しいけれど、
 「普遍の財産」で、お金の獲得や人材の貢献を引き出すことは容易です。


 「旭酒造」の優位さをもたらした基本構造はこのようになります。

 基本と2つの分野でのマーケティング及びイノベーション(革新活動)
 1.基本とは「使命」についてのものです。
 自社の使命を「酔う目的の酒をつくる」から「酒のある楽しい生活」に、
 また主たるターゲットを「中年の男性」から「30代後半の男女」に、
 地域を「地元」から「東京(日本中)」へ、さらに「ニューヨーク(全
 世界)」へ、このことによって新たな強みの顧客が開拓されました。
 2.製造について
 製造商品を「大吟醸」へさらに「日本一の精米歩合23%の大吟醸」へ。
 そして製造方法を「杜氏に任せる方式」から「データ管理、空調管理を
 もとに従業員が行う“科学的な製造方式”」へ。
 3.販売について
 試飲会も含む“直”の新規顧客開拓、これによって「ターゲット顧客」
 の反応を直接“フィードバック”することができました。

 また、ここで「ドラッガー」の「マネジメント」を確認します。
 「企業とは何かを決めるのは顧客である。」
 「企業の目的は、顧客の創造である。したがって、企業は二つの、そし
 て二つだけの機能を持つ。それがマーケティングとイノベーションであ
 る。マーケティングとイノベーションだけが成果をもたらす。」
 
 松下幸之助さんには、こんな言葉がいっぱいあります。
 「とにかく、考えてみることである。工夫してみることである。」「悪
 い時が過ぎれば、よい時は必ず来る。おしなべて、事を成す人は必ず時
 の来るのを待つ。あせらずあわてず、静かに時の来るのを待つ。そして、
 やってみることである。失敗すればやり直せばいい。」「失敗すればや
 り直せばいい。ダメなら、もう一度工夫し、もう一度やり直せばいい。」

 日本電産の永守さんも、こんなことを言っています。
 「困難さんは、解決君と一緒にやってくる。解決君だけ先にやって来な
 いのが厄介である。」「経営は“頭”ではないんです。だって頭のいい
 人が経営をできるなら、日本の大企業はもっと発展しているはずですよ。
 やはり気概と執念がないとダメなんです。やり切るとか、すぐやるとか、
 できるまでやるとか。そういうことが大切です。」

 
  ところで、もう一方の老舗「田中酒造」は、どうしたらよいのか。
 それは「開かずの金庫」から「普遍の財産」を見つけ出すことです。

 少し誇大ですが、こんな記事がありました。
 「小規模な地方の酒蔵の跡継ぎたちが、量ではなく、質と個性で勝負す
 る酒造りに挑むようになった。手間暇をかけて丁寧に醸されているだけ
 に量産は難しい。だが、上質な魂を込めて醸した酒は個性に溢れ、日本
 国内のファンだけではなく、世界の食通たち、そして第一級のシェフ、
 ソムリエたちを魅了していった。」