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マネジメント革命 No.174

<マネジメント革命>

 

1.賃金について

ユニクロは、海外転勤する職種の社員の初任給を現在の21万円から約2
 割引き上げ25万5,000円にする予定だそうです。
 また社員ではないのですが、ZOZOでは働くアルバイトのその時給を現在
 の1,000円から3割引き上げて1,300円にするそうなのです。 
 アパレル業界での元気企業が、共に賃金のテコ入れを始めています。

 ソニーでも、新入社員の初任給に差をつける取り組みを始めています。
 人工知能(AI)などの先端領域で高い能力を持つ人材については、年間
 給与を最大2割増しにするとしています。
  
 ここでこれらの「賃金アップの目的」はと考えるのですが、

 一般的に、賃金アップはコスト増としてとらえるのですが、上記の3社
 においてはさらなる成長を適える有効投資なのでしょう。
 
 ユニクロのアップ後の給料は商社の初任給に匹敵するのものだそうで、
 社員にグローバル企業としての認識を促すもののようで、柳井さんの世
 界戦略への積極参入の意思が窺えました。
 ZOZOの場合は、優越的な時間給により安定的な人材の囲い込みと満
 足感から生まれる労働の質向上を意図したもののようです。

 ソニーの場合においては明確で、専門知識を駆使できる専門家の確保な
 くして情報革命での優位性を維持できないとするものなので。
 賃金そのものではないのですが、ダイキンでは未経験者を一からAI等
 のITスキルの専門家に育てるために、2年間業務にたずさわらせず研
 修に没頭させ、自前の専門家の育成をはかろうとしています。

 もう少し賃金の意味合いを考えて行きます。

 「雇用を続ける企業などへのインセンティブがもう少し出てこないと、
 なかなか終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」言い始め
 たトヨタの豊田章男さんは、こんなことも言っています。
 「トヨタは、コストカットは行わない“原価低減”を行う」のだと、こ
 れらはどう違うんだということですが、ポイントは「賃金」にあります。

 同じ自動車産業での旧い話ですが、
 アメリカの自動車産業の勃興期、1914年にフォードは工場従業員の日給
 を2ドルからいきなり5ドルに引き上げたという歴史がありました。
 日給2ドルでさえ他企業より20%も高い賃金であったその当時のことで、
 その破格さは飛び抜けたものでありました。

 フォードT型の自動車販売価格と生産台数を見ます。
 1909年 販売価格950ドルで生産台数13,840台だったのが、
 1916年 販売価格360ドルで生産台数585,380台とまったく驚異的です。
 販売価格を低減すれば、販売台数が伸びるのは誰でもわかる論理ですが。
 賃金を上げても販売価格を下げられるその相関は何なのか。

 ※余談ですが、
 T型フォードで大成功を収めるまでには、フォード氏は7度の失敗と5
 度の破産の繰り返しを経験したそうなのです。

 現在なら月給1千万円以上に匹敵しそうな日給5ドルの賃金は、上記に
 も示した自動車販売価格の低減と生産台数の大幅増加をもたらしました。
 それでいて利益の大幅増益も適えました。
 そこには、人材募集コストの大幅削減そしてスキルアップした人材の定
 着そして「“知識”の活用」の複合した利益増大効果があったからです。

 ※この方法は、現在でも有効な賃金戦略として活きており、
 その方策をさらに磨いた企業が、BtoBの企業キーエンスなのでしょう。  

 「“知識”の適用」こそが
 「賃金アップ」と「利益アップ」を共に実現させた決定要因でした。

 フォードと言えば、1913年には世界で初めて導入した「ベルトコンベア
 ・システム」となるのですが“賃金”をあげても利益が確保できる生産
 性向上を実現させたのは、この“新知識”があってのことでした。
 「大衆車を量産する」というビジョンにもとに、熟練工による手作業か
 ら分業化した素人工での流れ作業とそれに続く流れでありました。 

 ドラッガーがこんなことを言っています。
 『“知識”とは正しく適用したとき、もっとも生産的な資源となる。逆
 にまちがって適用したとき、もっとも高価でありながら、まったく生産
 的でない資源となる』このときに適用した「ベルトコンベア・システム」
 は生産性向上のための画期的な“知識”であったと言えます。

 ※ここで一言、用語の定義を行わねば誤解を招くのですが、逆にこのこ
 との本当の理解こそが「経営の本質」を決定付けるものでもあります。
 ドラッガーの定義によると「“知識”とは、行動の基盤となるべきもの
 で、なんらかの成果をもたらす行動を可能にするものである。」
 だから、一般的な“知識”とは違った経営用語としての意味付けです。
 
 「流れ作業」それに続くこ「ベルトコンベア・システム」こそが、
 「賃金引き上げ効果」を「利益向上」に逓増させる“知識”であり「素
 人工」が「熟練工」の生産性を上回れるシステムであったと言えます。
 経営者としてのフォードが、この“知識”を導入することで一気に生産
 性の革新的な向上がはかったといえます。

 ドラッガーは“マネジメントの肝”たるこんなことを言っています。
 「今日では“知識”だけが意味ある資源である。もちろん伝統的な生産
 要素、土地(天然資源)、労働、資本がなくなったわけではない。だが
 二義的要素となった。それらの生産要素は“知識”さえあれば入手可能
 である。しかも簡単に手に入れられる。」のだそうです。

 何を言っているの理解しづらいと思いますので、一息入れます。
  
2.ポスト資本主義社会 

 話をトヨタに戻して、
 先に言った「原価低減」と「コストカット」の違いについてそれが意味
 するところを明らかにし“賃金”のあり様を考えたいと思います。

 後者の「コストカット」は、すべてのコストの構成要素つまり“賃金”
 も含めたコストはカットしようとするものです。
 それに対して「原価低減」は、フォードが行ったように「賃金をアッ
 プ」させたとしても「“知識”を活用」することによって「原価の低
 減」を実現させようとするものです。

 少し話が込み入るのですが、仕事における“欲求”について、
 そこに「所属していたいという欲求」とそこで「懸命に働いてみたい
 という欲求」は、それを起こす要因が異なるのです。
 「満足できる額の“賃金”」は、過酷な条件の仕事であってもその満
 足度に比例して、職場を辞めないという状況を生みます。

 ※この考え方は、ハーズバーグの「動機づけ―衛生理論」と呼ばれる
 もので、1950年代後半にピッツバーグで200人の技術者と会計士を対象
 に行なった研究によって明かにされたものです。

 トヨタの「“強み”の源泉」は何か、それこそが“カイゼン”で絶え
 ることなく『原価低減』が実現させることです。
 その“カイゼン”の原動力は何か、それこそが「トヨタの企業文化」
 のもとで育てられてきた「自立的に“知恵(知識)”」を絞り「カイ
 ゼン」を実行する「第一線の現場の従業員」とそのグループです。

 そんな“虎の子”の「第一線の現場の従業員」が、満足して仕事に専
 心、従事できる環境を整えるのが経営者の役割となります。
 それらの“知識”をつくりそして実行する“人材”が自己増殖するよ
 うに「マネジメントの知識」を駆使してシステム構築しメンテナンス
 し必要に応じて革新することこそ“マネジメント”の仕事です。

 ここまで話しをすすめてきたのは、
 二つのことについての考え方、つまり「知識」の本質についてとそれ
 に関連しての「賃金」についてイメージしていただければと思ったか
 らで、言いたいのは、現場で働く人たちが知識をつくり実行できるよ
 う、経営者が“知識”を活用しなければ勝てないということです。

 少なくとも、賃金を削減したのでは“知識”は生まれないばかりか、
 一定水準以上の生産性維持もままならないでしょう


 さらに話をすすめますが、ご承知のように成功したフォードですが、
 マーケティングの知識で「GM」に負け、多品種少量生産の知識と
 “カイゼン”の知識で「トヨタ」に負けてしまうのです。
 フォードの“知識”は陳腐化したのでした。
 しかし、その勝ったトヨタが「百年に一度の危機」のなかにいます。
  
 今という時代を、ドラッガーは「ポスト資本主義社会」と言い“資本”
 ではなく“知識”を得た者が“機会”を切り拓くとします。
 その“知識”の発現を行うのは誰か、もちろん“人”でその“人”の
 力を最大限に引き出し活用するのが“マネジメント”だということで
 今日は「生産性革命」に続く「マネジメント革命」の時代です。

 “知識”の発現者であり実行者は“人”で、
 『人こそ最大の資産』と言うドラッガーは、こんなことも。

  「現場で働く人は、自らの仕事、その論理とリズム、道具、仕事の質
 について多くを知っている。働く人たち自身についての生産性、品質、
 成果を向上させる原点である。」「肉体労働については、働く人たち
 とパートナーシップは最良の方法である。だが知識労働については、
 唯一の方法であって、他の方法はまったく機能しない。」

 「生産の向上には継続学習不可欠であるということである。学習に終
 わりはない。訓練の最大の効果は、新しいことを学びとることにある
 のではなく、すでにうまく行っていることを、さらにうまく行えるよ
 うにすることにある。」「知識労働者は、自らが教えるときにもっと
 もよく学ぶという事実がある。」 
 
 最後に「活用できる“知識”は誰からどのようにして得るのか」
 それはすべての人からすべての機会に、
 松下幸之助さんはそれを『衆知』と言い、その衆知を集めて行う経営
 のことを『衆知を集めた全員経営』と称していました。
 ただし「最終意思決定」は、トップ・マネジメントが行います。