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経営力の確立 172

<経営力の確立>

 

1.経営者は何に頼るのか 
   いつも優良企業の事例でマネジメントのエッセンスを紹介しています。
  だから、自分には関係ないと感じられていると思うのですが、事業を営
  む限り大きい小さいは関係なく最質・最良の「効用」を提供しない限り、
  そのための考え方を持たない限り企業の存続は保証されません。
  意欲のある起業家は、知恵を身につけることで盤石となります。  

  金メダルやノーベル賞を取る人には、たまたま見出した自分の才能を倍
  する努力と思わぬ幸運でもって獲得したというケースも多いようです。
  “意志”と“智恵”あれば、等しく優良企業への機会は転がっています。

  ただし「棚ボタ」も口を開けなければ飛び込んできませんので、まず口
  を開けることから始めなければなりません。
  「トヨタ」にしても発明王の豊田佐吉が「『日本人は、只模倣の民族で
  ある』と言われることに、自己の智能の優秀なことを証拠立ててやる」
  と、それを継いだ豊田喜一郎もそう“意思”したことから始まります。

  もし、あなたが強烈に意思して強烈に知恵を巡らして大きくジャンプし
  て望むのならば、中堅企業の経営者になるのは不思議ではありません。
  もちろんそのためには、いくつかの条件があります。
    それが、お釈迦様が言われた「自灯明」・「法灯明」つまり原理・原則
  に則りに自分の意思と知恵の限りを尽くすることです。

  これだけではよく分からないと思いますので付け加えます。

  「法灯明」は、原理・原則を“依り代”にということですが、
  事業を営んでそれが成り立つというのはどういうことなのかを考えます。
  それはお客さんが、気に入ってくれるということに尽きます。
  そこにおいては、どんな動機であるかは関係ないのですが、ただし自己
  愛では共感も支持も得られず、自身の能力が尽きればそれまでです。

  「自灯明」は、自身を“判断の依り代”にしなさいということですが、
  その意味するのは「渇愛」を拠り所にしなさいということではもちろん
  なく、自他ともに幸せにする「真の知恵」を意味します。
  自分には能力だけでなく知恵があり、他の人にも同じものがあり、
  『他の人の知恵までフル活用できる』自身の知恵こそ依り代です。

  
  中小企業の経営者の方と会うことが多くあったのですが、2代目さんも
  含めて少なからずの人が“意思”と“知恵”の威力に思い至らず、ただ
  “僥倖”を当てにして自壊しているのには寂しさを禁じ得ませんでした。
  「僥倖の成功」は“毒”です、心根を腐らせます。
  「自灯明」・「法灯明」で得られた成果こそが“楽”につながる。
  
  どうしたらよいのでしょうか。
  もう、これを読んでいただいている方にはおよそは見当つけておられる
  と思いますが「摂理に基づき“よく考える”」「それを“実行”する」
  そして「結果をみながら修正し“やりなおす”。」を繰り返す。
  未知なる先を制するため「マネジメント・サイクル」を回すとなります。

  こう言ってしまっては、当たり前すぎるので、
  成功者である「トヨタ」の豊田章男さんの言葉を拾いますと。
  “持続的成長”と“競争力強化”のため「やらなければならないこと」
  を「意思を持って」「コツコツとやりつづける」となります。
  ことは「顧客」と「時代」に焦点を絞り、泥臭く実行するとなります。

  こんな話が目につきました。
 
  それは、稲盛和夫氏が2007年5月に東京証券取引所で東証マザーズに上場
  していた経営者たちを相手に行われた講演で言われたもので。
  「私は、戦後の日本を引っ張ってこられた創業型の経営者の後ろ姿を学
  びながら、今日までやってきました。皆さん、素晴らしい経営をされて
  こられましたけれど、晩年までいい会社の状態でもって、ハッピーリタ
  イアメントされた方というのは非常に少ないんですね。」

 

2.晩節を汚さぬために    

  ある中小企業の二人の経営者の方の成功とその後の話を紹介します。
  ただし、今もご存命で業績低迷のなか健闘されていますので、具体的に
  お伝え出来ないのですが、
  また、後継者も見つかったので、その方の奮起が期待され今後の業績回
  復の願いも込めて述べて行きます。

  まず、二社の成功はこうして訪れたという話をします。
  それを一言で言えば「“イノベーション”が当たった。」となります。
  この「当り」は市場になかった掘り出し物で、大手企業がそれに目をつ
  けるところとなり取引が始まって業績が一気に拡大しました。
  喜ばしい余韻は、数年を超えて続きました。

  その後はどうなったか、二社をA社、B社として話します。
  両社の経営者ともに人格は清廉で、創業時においては新進の気風と気力
  は充実しておられ、時代の流れをみごとにつかまれました。
  しかし現在は、歳月の経過とともに業績の降下が続いています。
  何故なのか、先に結論を言うとすべて個人の能力にのみ頼ったことです。

  ドラッガーの言葉を挿入します。

  「企業(組織)とは、共通の目的のために働く“専門家”からなる人間
  集団である」と規定しており、人材に異なる能力を求めるのです。
  そして「企業(組織)が機能するには、マネジメントが成果をあげなけ
  ればならない。組織がなければマネジメントはない。しかし、マネジメ
  ントがなければ組織もない。」とします。

  A社から話をしますと、
  A社が事業を拡大したのは、ある金属加工分野でIT技術を活用して精
  緻さとスピードアップをともに実現させたからです。
  その技術は画期的なもので、その機能に大手企業がすぐに興味を示し共
  同事業の運びとなり、その結果が好評で業績が急拡大したのでした。

  陳腐化は世の常で、A社の技術はまわりの技術の進展でやがて魅力を失
  ってまた大手企業が自社に取り込むところとなり提携は解消されました。
  そこでA社の経営者は、新たな成長をめざして最先端のプラスチック加
  工機に活路を求めて高額機器を導入し再チャレンジを行いました。
  しばらくは業績は伸びたものの、さらなる革新を迫まれています。

  後の残ったのは、未償却の高性能機器と財務の悪化です。

  B社が始めたのは、乳幼児に特化し母親の負担を軽減する機能商品で。
  この商品は、未だ世間になかったものでかつ時代の欲求に合致するもの
  で専門店のルートに流すと結構な量で捌かれて行きました。
  そしてその売れ行きを見ていた中堅量販店の経営者が気に入って、そこ
  から大口の取引が始まりました。

  いつもヒット商品が出るとたどる同じ道筋があるのですが、すぐに模倣
  する商品が現れ、中堅メーカーも参入してきました。
  特許商品でなかったので競合は激化し、その時にB社の経営者の行った
  対策はひたすら取引先量販店の経営者との人間的関係の強化でした。
  一応功を奏し、商品取引は維持されましたが伸び悩みのままです。

  結果、生産設備は稼働されずその投資がネックになりました。


  本田宗一郎さんとホンダに育てあげた共同創業者の藤沢武夫さんが常々
  周囲に説いた言葉があるのですが、それは「万物は流転する」です。
  藤沢さんが最も恐れたのは「技術の天才である本田さんの陳腐化とカリ
  スマの弊害」で、ために自身が退くことを意思表示しそれを察した本田
  さんも思うところがあり「爽やかな退任劇」となったようです。
  
    事業を行うについて一番怖いのは“使命感”を持たずに事業を始め労少
  なくしてたまたまの時流に乗って成功することです。
  なぜなら、それは成功を継続させるための「企業文化(センス、信念)」
  構築がなされず、失敗を乗り超えることで始めて得られる「知恵の深化」
  や「体質の強化」を行う機会を失うからです。

  そこでは「衆知」を結集する「マネジメント」の成果が生れません。  

  それについて、ドラッガーはこんなことを言っています。
  「既存の組織について“起業家マネジメント”というとき、
  ポイントは前半の“起業家”にある。ベンチャーについては後半の“マ
  ネジメント”にある。既存の組織にとって、起業家精神の障害になるも
  のは既存の事業であり、ベンチャーにとって、起業家精神の障害になる
  ものは既存事業の欠落である。」。

  このことを端的に示す事例があるのですが、また「ホンダ」で考えます。
  ホンダは「本田さんの技術」の大成功で伸びてきた企業ですが、はじめ
  の頃の興隆期に「技術」に頼り過ぎての巨額の投資負担と新商品の開発
  の失敗で倒産の淵に追い込まれに至ったことがありました。
  ところがこれが幸いして、近代的マネジメントの企業へ変身するのです。

  その過程は、ギリギリの瀬戸際でメイン銀行の支援を取り付け、支払先
  へのごり押しとも取られる支払い条件の変更、製品の欠陥の解決などあ
  れやこれやして売上を回復をはたしやっと倒産を免れました。
  経営を担っていた藤沢さんは大反省で、変身するために組織、会計制度、
  評価制度等の整備を行いマネジメントの近代化を断行しました。


  これから述べるのは僭越なのですが、原則論として。

  あなたが事業を始められるのは何のためですか。
  それを「社会、人々の幸福のため」とするならば、その価値観により顧
  客の信頼と従業員との共感が醸し出され多くの飛躍が約束されます。
  なぜなら顧客は、あなたの商品を購入してくれ、それをつくる従業員は
  自分に誇りを持つことができ懸命に存続のため貢献してくれます。

    ※もちろんすべての顧客がそうでなく、すべての従業員がそのような訳
  ではないのですが、
  強さに焦点を当て伸ばすのことが、マネジメントの基本の考え方です。

  企業を始めるとき、このことを最初に心するのが経営者の規範です。
  このことは物心両面の大きな満足を得るための必要要件で。
  そこから“使命”を宣言すること、その価値観にもとづく評価基準と社
  会貢献と利益のための目標設定を行い、そして管理のための会計制度お
  よびシステムさらに評価制度の整備を行うこと。

  経営理念と行動規範は、価値観を共有する幹部、社員全員を参画させそ
  れぞれが意を尽くして公明正大に思いを交換し構築して行くものです。
  もちろん、最初と最終の決断は、経営者の専権の権限であり責務で。
  この最初と最終の決断こそ、すべての成果の行方を大きく左右するもの
  なので、経営者の価値観は重要な難題の核心です。

  成果を実現させる経営理念と行動規範を基盤にして事業を行うのですが、
  その事業は、物心両面の幸福を実現するものであるので「真っ当である
  仕事」を全員が力と知恵を収斂し実行して成さねばならないものです。
  
  これこそが、経営者は晩節を豊かにするための賢い根本的な知恵です。


  京セラの稲盛さんは年俸は300万円にすぎなかった頃、京セラはすでに数
  十億円の利益を出していたそうです。
  そんなときに大阪証券取引所二部に上場することになったのですが、
  「年俸数百万円しかもらっていない私に、何億円というお金が入るとい
  う。人間、そちらのほうに心が向かないはずがありません。けれど、ど
  うもおかしい、これは“悪魔のささやき”ではなかろうかと思いました。
  キャピタルゲインを個人で得ることはしたくないと話し、持ち株はただ
  の一株も市場に出さなかった。」と当時のことを述べられ。
  「このときの決断が、私が人生を間違うことなく歩いてくることができ
  た元になっているような気がします」と振り返っています。

  「今日は主役を演じているけれど、明日の劇では別の人が主役を演じて
  もよい。にもかかわらず『オレが、オレが』と言っている。それこそが、
  自分のエゴが増大していく元になるように思うのです。」  
  「自分の才能は、世のため人のため、社会のために使えといって、たま
  たま天が私という存在に与えたのです。その才能を自分のために使った
  のでは、バチが当たります。エゴを増大させていっては身の破滅だと思
  った私は、それからエゴと闘う人生を歩いてきました」

  「エゴが増大して、自分でも、そして周囲からも手がつけられなくなっ
  たとき、経営者は判断を誤り、社員の心も離れていく。報酬の多寡では
  なく『オレがオレが』という気持ちを抑えることである。」
  このことが、企業が「ゴーイングコンサーン(継続する企業)」となり、
  晩節を全うできる経営者への道であると述べられています。

  蛇足ですが、稲盛さんはこんな思い持つことで「ゴーンさんのコース」
  に迷い込まずに晩節を歩まれているのだと思えるのですが。